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「やっぱり混んでるね」
小さな顔も長い頸もキャラメル色をしたテディが苦笑いして振り向く。
そうすると、美術館自体のカーペットや漆喰、そして周りの見物客の汗じみた匂いに混ざって青葉めいた香りが浮かび上がった。
「宣伝に使われた絵ですからね」
これ、訊いたことないけど、きっと高いオーデコロンか何かだろうな。
笑顔で返しながら推し量る。
自分もシトラスのデオドラントスプレーを点けているけれど、所詮はドラッグストアやコンビニで大量販売している安物だし、それ自体の芳香より汗の匂い隠しになれば良いというのが主目的だ。
テディの目には随分安っぽい匂いを漂わせて子どもじみた化粧を頑張っている女の子に映っているのだろうか。
確かに今日はまだ暗黙の恋愛関係としてのデートだと思ったから精一杯綺麗な女に見える装いをしたけれど。
そこにまた罪悪感と空恐ろしさが混ざるのを感じる。
さっと目の前にいる人の波が退いて、並んだ二人の前に絵が現れた。
目の前に現れた一幅の絵、というよりカンヴァスの上に切り取られた異世界の風景に背筋に震えが走る。
画集でも広告でも繰り返し目にしたイメージのはずなのに。
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