第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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“世界の終わり”  これは文字通り、世界の終末の光景を描いた作品だ。  山火事のように赤く灼ける夕陽(終末の光景だから朝陽ではないだろう)と山の影を背に黒い泉が広がっており、そこに半ば沈んだ鳥や得体の知れない生き物に混ざって、豊かな銀髪の少女がゴム毬めいたふくよかな丸い乳房の半ばまで水に浸からせて冷たく碧い目を画面のこちら側に向けている。  画面の手前側には泉の畔の枯れ葉や枯れ枝が描かれており、画中の世界では動物はもちろん植物も枯死してしまったと知れる。  輝く豊かな白銀の髪と乳房、そして氷のように煌めく瞳の乙女だけが活きているのだ。  肢体は官能的だが、鋭い瞳の顔立ちや小さな唇を結んだ表情は中性的で気高く見える。  これは破滅する世界で一人だけ神仏のような永遠の命を得た乙女だろうか。  自分もこの絵のヒロインのように超然とした存在であれたら良いのに。  終末の世界を描いた作品なのにそんな羨望と憧憬を覚える。
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