第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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「ファム・ファタルだね。破滅の女」  隣のテディを見やると、どこか痛ましげな眼差しで絵を見詰めていた。 「水に映っているのが本当の姿なんだろう」  え……?  思わず画中の黒い水面に目を落とすと、そこには冷たい目をいっそう光らせた、湖面から抜き出た姿と本来は同じ表情のはずなのにどこかおぞましい顔が映っていた。  ザワザワと今度は胸の奥から暗いものが湧き出てきた。  忘れて見ないフリをしてきた穴から思い出させようとするように。 「こっちには気付きませんでした」  画集でも広告でも繰り返し目にした絵なのに、見落としていた。  この人と一緒に見て教えられなければ、気付かないままだっただろう。  だが、知らなければ良かった、言わないで欲しかったという思いが纏い付いてくる。
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