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「これ、観たかったんだあ」
斜め後ろから飛んできた、どこかに聞き覚えのある訛りを微かに帯びた少女の声に振り向く。
あ……。
「カナちゃん、ずっとそう言ってたね」
おっとりした口調で隣の中学生くらいの若草色のワンピースにセミロングに太く真っ直ぐな黒髪を切り揃えた女の子に語り掛ける背の高い――ちょうど自分の隣りにいるテディくらいの――男子大学生の姿に一瞬、息が止まった。
こちらの視線と微かに強張った気配に気付いたのか、琥珀じみた浅黒い肌に太い一文字眉、そして、ややギョロついた大きな目をした、一見すると兄妹じみた二人も振り返った。
四個の瞳が天然パーマのロングヘアを降ろした、パールピンクのグロスを唇に塗った、フリルブラウスにチュールスカートを穿いた、いかにも気合を入れてデートの装いをした女子大学生そのものの自分の姿に注がれるのを感じる。
サーッと全身の血の気が引くのを覚えた。
いや、俺は体に相応しい格好をしているだけだ。
頭ではそう知っていても、心には知り合いに派手な女装をして男と一緒にいるところを見つかったという後ろめたさが先に来る。
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