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「ミオコのお友達?」
隣のテディを見やると、むしろ自分が昔なじみに会ったかのように人懐こい笑いを浮かべている。
すると、言葉の微妙なイントネーションからこちらの連れが日本人ではないと察したのか、旧知の従兄妹の浅黒い顔に微かに固い表情が現れて、次の瞬間に少女はことさら感情を消した顔つきになり、年長の従兄の方は平生の穏やかな面持ちに戻す。
確かにこの同郷の二人は自分と同じ日本の雪深い地域の出身者よりも香港人というか中国の南方の人にこそ相応しい面差しをしていると頭の片隅で思いつつ頷いた。
「はい」
実際のところ、「友達」というほど親しくはない顔見知りだし、恐らくは相手も同じ認識だろうが、「違う」と答えると、相手への侮辱になって余計に嫌な空気になる事態しか想定できないのでそう答える。
いつの間にか笑いの消えていた自分の顔をテディの面に浮かんでいる人懐こい笑いに近付けるようにして続けた。
「学校や習い事の教室で一緒でした」
雑な紹介だが嘘はついていない。
「そうなんだ」
三十歳のテディは一回り下の自分たち三人を見回してごく明るい、どこにも皮肉や意地の悪さのない調子で頷く。
そうすると、若葉じみたコロンの匂いが仄かにこちらにまで漂った。
「じゃ、また地元に帰った時にでも」
大河は飽くまでおっとりした声で告げると、まだ固い面持ちで旧知の女子学生と初見の異邦人を見詰めている従妹を促すようにして歩き出す。
「ハルキくんに似てるよね」
小さく潜めつつどこか咎める風な少女の声が耳を刺した。
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