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「さっきの彼、イケメンだね」
美術館から出て湿気とアスファルトの匂いをたっぷり含んだ空気が押し寄せる中、テディはカラカラと笑った。
この人の笑いには日本人にありがちな妙な照れや意地悪さがない。
「そうですか?」
大河は決して不細工ではないが、テディやハルの方が切れ長い涼しい目をしていて一般にはより端正ではないかと思う。
「元カレかと思った」
眩しい陽光を浴びた銀縁眼鏡のレンズには長い天然パーマの髪を降ろして胸の線の際立つフリルブラウスを着た自分の影が反射して映っていた。
「そんなんじゃないですよ」
あはは、と気の抜けた笑いが口から溢れる。
「あの人は私の友達のカレだったんです」
紗奈ちゃんは地元の大学に行ったから、今はもう別れたのかな?
それとも、遠距離恋愛なのかな?
変わらずに蘇るのはあの二人が付き合っていると知った時の胸の痛みだけだ。
「私はどちらかと言うとあの彼は苦手だったし、向こうも私のことは多分好きじゃないと思う」
少なくともこれは嘘ではない。
いちいち自分に向かって確かめる自分が後ろめたい。
「そんな風に思うことはないよ」
首を横に振ってカラカラ笑う銀縁眼鏡の奥の目はおおらかに細まっていた。
「君はとてもいい子なんだから」
目尻に微かに刻まれた皺を含めてこの人は自分たちよりずっと大人なのだと今更ながら感じる。
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