第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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「ミオコ?」  この声は……。  不意に斜め前から飛んできた柔らかな呼び掛けに強張っていた顔がふっと綻ぶのを覚えながら見やる。  あ……。  そこには真っ直ぐな漆黒の髪をハーフアップに結ってシンプルな黒のワンピースを着た、それ故に彫り深い華やかな顔立ちとすらりとした肢体が際立って洗練されて見える美咲と初めて目にする男が立っていた。  これは美咲の彼氏だ。  何だか地味な、今、自分と指を絡ませているテディと比べても全く美男子ではない人だが、美咲のすぐ横にさりげなく、しかし、臆することなく寄り添っている姿に直感で察する。  と、その目立たない、特徴らしい特徴もない顔にふっと柔らかな笑いが浮かんだ。 ――君が美咲の友達だね。僕も知ってるよ。  そんな心の声が聞こえてきそうな、ごく好意的な、嫌らしさや意地の悪さ、見下しなど全く見えない表情だ。  こいつは初見の自分にもそつのない応対が自然に出来る男なんだ。  だから美咲とも付き合えるのだ。  引きつった笑顔を返しながら、胸の中で墨を含んだ筆を水に浸したように敗北感が濃さを増しながら広がるのを覚えた。
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