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「そっちも彼氏さんと一緒なんだ?」
指と指を絡ませた自分とテディに向かって美咲はこぼれるような笑顔で問い掛けた。
彼女の立つ場所から風に混ざって薔薇の匂いがほのかに漂ってくる。
「ああ……」
違う。
言葉が喉の奥でつかえたまま、ただ、目の前にいる彼女の笑顔を壊したくなくて作り笑いを浮かべた顔を戻せない。
唐突に現れた美咲も、その彼氏も飽くまで温かに笑っている。
テディもどこか寂しいものを含んだ笑顔でこちらを見詰めていた。
自分が一番、嘘に塗れた醜い人間だ。
梅雨時の湿り気を含んだ風に吹かれて、汗に崩れたファンデーションで微かに肌が突っ張り、唇に塗ったグロスも半ば剥げたであろう顔で思う。
テディだってこちらが恋愛を装いさえしなければこうした振る舞いに出ることはなかっただろう。
俺が煽って恥をかかせたんだ。
水色のエナメルのヒールを履いた爪先が狭く硬い型に締め付けられたままぐっと地面に押し付けられて痛むのを感じた。
どうしてこんな靴を履いてきちゃったんだろう。
バレエやってる時もトゥシューズなんか嫌いだったのに、「女」を演じるためにわざわざ歩きづらい飾り物に逆戻りして。
ふと、美咲の足元を見やると、きらびやかなゴールドの革製だが形としてはフラットなサンダルを履いていた。
本当にお洒落な女の子は自ずと無理のない服や履き物を選べるのだ。
そう思うと自分が余計に偽物じみた、何か悪いことをやらかして逃走するために急拵えの女装をした犯人のようなグロテスクな姿に思えた。
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