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「ミオコ、最近凄く綺麗になったと思ったら、こんな素敵な彼氏さんがいたんだね!」
「そうなんだ」
やめてくれ。
格好だけは指を絡ませたままどちらも相手を繋ぎ止めようとする力の失った自分たちを前に、薔薇の匂いを漂わせながら本物の恋人同士が無邪気に笑い合う。
この二人は自分たちが幸せで余裕があるから他人を冷笑したり侮辱したりする必要がないのだ。
すぐ近くにいて彼女がいつも香りまでするのにまるで透明な障壁でも張られた向こうにいるように思えた。
「じゃ、また学校で」
赤ちゃん猫じみた笑顔で告げると、美咲は自分にとっては名前も知らない男と寄り添って去っていく。
俺は明後日にはまた大学で他の男と付き合う美咲と顔を合わせるのだろうか。
自分も彼氏持ちの女の子みたいなフリして。
視野の中で黒ワンピースに真っ直ぐな漆黒の髪をハーフアップに結って垂らした後ろ姿が小さくなる。
影のように連れ立って歩く男と共に。
――ゴーッ……。
ビルとビルとの間を吹き抜ける風と共に電車の通り過ぎる音が響いてきた。
まるでピエロだ。
こんなフリフリの服着て、顔に色々塗ったくって、足痛くなりながらヒール履いて、それで、本当に好きな人からは端から視野にも入れられてない。
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