第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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*****  洗面台の鏡には涙に崩れた化粧を洗い落としてもなお目と鼻はうっすら赤い、顔周りの髪の毛は濡れて貼り付いた素顔が映っている。  これが今まで「女」として自分を偽ってきた自分の姿だ。  鏡を見ながら、耳のすぐ上の髪を一房掴んで(はさみ)を入れる。 ――ザク。  長く伸ばしてきた髪は造作なく切れて足の甲の上に落ちた。 ――ザク、ザク、シャキリ。  鏡の中の「女」がどんどん髪を切り落とされていく。 *****  鏡の中には殆ど刈り上げに近いベリーショートになった自分が映っている。  首を回すと、後頭部などは不揃いで中途半端に長い所も残っているが、そんな不格好さも含めて自分なのだと思った。  他人の目で見れば、「セルフカットで男みたいな野暮臭い刈り上げ頭になった女の子」でしかないだろう。中身が普通に女の子でも髪を短くしている人はいるし。  しかし、もう自分は「女」を装うことはしない。
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