第二十二章:心は変えられない――陽希十八歳の視点

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「雅希、あんたもうちにいる間に髪切りに行きなさいよ」  運転席の貴海伯母さんが嗜める風に声を掛ける。 「四月からずっと切ってないでしょ」 「分かった」  面倒そうに答える再従兄の髪は襟足が肩にギリギリ届くくらいで全体としては幼馴染と大差ない。  何となく自分も気になって窓ガラスに映った姿を確かめるが、半月前に床屋で切ったばかりの髪は襟足もきっちり短く頸が全て露わな状態である。  奥に映るミオと比べても明らかに頸が太くカーキ色のTシャツを着た肩も広く角張った自分の姿にまた苦笑いが過ぎる。  俺らのような本物の男だと襟足が肩に届くか届かないかのレベルでも「長い」「だらしない」と暗にもっと短くするように要請されるのだ。  流行(はや)りのアイドルや俳優に長髪で持て囃される人がいたとしても、それはそもそも彼らが仕事として特殊な装いをすることが求められる立場だからで、いわば職業的な特権だ。  更に言えば、そうした人たちでも真似をする一般人を含めて 「男の癖に髪を伸ばして気色悪い」 と世間の少なくはない人たちから冷笑されるのだ。  そもそも男だと女でいうところの「セミロング」「おかっぱ頭」でも「長髪」の括りに入れられるし、男でいわゆる「長髪」にする少数派の中ですら背中にまで垂れるような女の「ロングヘア」に相当する長さにまで伸ばした人は稀である。  もし、俺や雅希君が腰まで届くようなロングヘアにしたら今のミオよりもっと奇異の目で見られるだろう。  男みたいな女より女みたいな男の方がよりグロテスクで変態的な人間として扱われる。  好むと好まざるとに関わらず、本物の男にはそんな縛りが付き纏うのだ。  そう隣の幼馴染に告げたい思いで振り返ったところでまた前の座席からあどけない声が飛んだ。
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