第二十二章:心は変えられない――陽希十八歳の視点

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 車がトンネルに入って、車内はオレンジ色の暗がりに染まる。  そうだ、今日はお母さんの命日の墓参りだった。  このトンネルを抜けて、もう少し行った所の山の墓地にお母さんとお祖父ちゃんは葬られているのだ。 ――ゴーッ……。  車窓からは水に潜るのに似た音が響いてきた。  正直、お祖父ちゃんはともかくお母さんは「お母さん」と近しい風に呼ぶべきなのか今となっては疑問だし、何より相手も望んではいなかったのではないかという気がする。  暗いオレンジ色のトンネルを隔てた窓ガラスに映った蒼白い面が見詰め返してくる。  何て恨めしげで陰鬱な目付きだろう。 ――お前なんか死ね! 地獄に堕ちろ!  そう言い残して四年前の夏休みの終わり近い、お盆とお彼岸の合間の季節に自分が事故で逝ってしまったあの人の目にそっくりだ。 ――こっちはある日突然置いてけぼりですよ。  目以外の顔立ちや固い髪、背格好は葬式で会ったきり顔を合わせていない産みの父親譲りだ(もっとも、向こうの髪はもう真っ白だったが)。  見れば見るほど、自分の容姿が産みの父母の厭わしい部分の寄せ集めに思えた。  むろん、世間には一般的な基準に照らし合わせて自分より不細工、不格好な人もいる。  しかし、俺の姿かたちにはAIが描いた絵のような、一見すると普通なようで産みの両親の暗部を抽出して融合させたグロテスクさが纏い付いている気がするのだ。 ――ゴーッ……。  車内特有のゴム臭い匂いに混ざって椿に似た甘い香りが仄かにする。   そういう自分が嫌だと思いつつ、体の奥が燻るのを感じた。
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