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「前に付き合ってた女の子が地元の国立の医学部に行ったんですよ」
こちらの思いをよそにサイドミラーの中で運転席の貴海伯母さんの顔が苦笑いすると、助手席の陽子おばさんも笑いを含んだ声で答えた。
「凄いですねえ」
次の瞬間、パッと視界がオレンジ色の闇から白白と眩しい光で溢れる。
「こっちも病院や人手が少ないですから、わざわざ医療を選んで勉強してくれる人はありがたいですよ」
どこか安堵して礼を告げる風な調子で幼馴染の母親は付け加えた。
感嘆より穏やかな感謝の言葉に響く声だ。
この人はやっぱり死んだ母とは違う。
視野で尾を引く紫と緑の残像に目を瞬かせつつトンネルを出て元の色彩を取り戻した夏の風景を眺めながら思う。
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