第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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 外に出ると、焼け付くようなアスファルトの匂いと共にムアッと湿気を多量に含んだ熱気に包まれる。  夫と暮らしていた都会の街より郷里のこの街の方が夏はより蒸して冬はより冷え込むのだ。  改めてそんな煩わしさが蘇るのを感じつつ、陽炎の揺れる街路に足を進める。 「それ、プリントにない本だけどいいの?」 「プリントに載ってるのはただの例だから好きな本で感想文出していいって先生言ってたよ」  あの女の子二人は中学生くらいかな?  そういえば、もう夏休みだった。  人混みで擦れ違う顔触れには中高生らしい顔も目につく。 “中絶なんて浅はかで頭の悪い女の子が男に逃げられてする愚行”  まだ男性と付き合ったことのなかった(告白されたことは何度かあったが、付き合いたいと思えるほどの相手はいなかったし、何よりも『付き合っている彼女とやった』『あいつらはやっている』みたいに面白がって話している男の子たちを見るととても嫌な気分になり、自分が地元でそんな噂の種にされるのは絶対に避けたかった)中高生時代の私はそう思っていたし、世間でもそんな風にイメージする人は少なくないだろう。  だが、実際のところ、中絶する女性は十代の少女より二十代、三十代の既婚女性が多いという。  自分のような経緯はその中では一般的ではないかもしれない。  しかし、夫から妊娠させられて中絶を選ぶ既婚女性は、考えなしに性行為、妊娠して男から逃げられて中絶させられる女子高生より数としては多い。  中絶には未熟な少女や不倫など一般に認められない関係を持っていた女性の愚行というイメージがある。  それは、夫が妻に性暴力を働いて望まない妊娠をさせる現実はなかったものにしたい、目を逸らしたい人が社会の大半だからではないのか。
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