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――お母さんは最初から俺のことなんか要らなかった。俺も一緒にいて苦痛しかなかった。死んで正直、ホッとした。今、振り返っても嫌な思い出しかない。
亡き母の親友の肩を掴んでそう叫びたい衝動に駆られる一方で、あの雨の中、顔をグシャグシャにして泣いた、今も月命日には必ず母の墓参りするこの人にそれは絶対に言ってはならないことだと自分に言い聞かせる。
膝の上で知らず知らず握り締めた拳が震えた。
お母さんだって陽子おばさんに血を分けた実の息子が邪魔だという話はしなかっただろう。むしろ、出来なかっただろう。
自分たち親子はそんな風にして無邪気なこの人の信頼を保ったのだ。騙しおおせたのだ。今も欺き続けているのだ。
そう考えると、憎み合っていた母親と自分が信頼してくれる人を踏み躙る点では不潔な仲間のように思えていっそう厭わしくなった。
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