第二十二章:心は変えられない――陽希十八歳の視点

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「自分もまだ住んで三ヶ月ちょっとですけど、あっちはスタバとかこっちでは見掛けないようなチェーン店のカフェも多いから、ちょっとお茶するには便利ですよ」  隣のザンギリ頭に緩い黒の上下で体の線を覆ったミオが上擦った声で告げる。  振り向くと、どこか強いられた風な笑顔だ。 「じゃ、明日はちょっとこっちでは行けないお店でも探して見てこようかな」  前の席のお祖母ちゃんも合わせたように楽しげな声で答えた。  それでいいんだと思いつつ、隣に座る相手にそれとなく尋ねる。 「スタバとかよく行くの?」  一人で?  それとも誰かと?  それは男?  それとも女?  互いにどんな位置付けの相手?  こんなザンギリ頭にして色気の欠片もない、むしろ「女」と見られそうな要素を削ぎ落とした今のミオに男がいるわけはない。  これはむしろ男避()けの装いだ。  そうは察しつつも頭の中に出せない問いが渦を巻く。  斬首刑前の女囚めいた姿になった幼馴染は白桃じみた薄桃色の頬に苦い笑いを浮かべた。 「サークルの友達と帰りにちょっと寄って話したりとか試験前にちょっとテキスト読み直したりする時にね」  “友達”ってどんな人?  “ちょっと”と繰り返されると、逆にしょっちゅう行って長居しているように思える。  相手は前に向き直ってこちらには華奢な横顔と不揃いに伸びた髪の微かに掛かった項を見せて言い放った。 「家で人目がないとだらけちゃうから」  自分より先に前のシートから再従兄が笑って応じる。 「俺も試験前はファミレスのドリンクバーで粘るよ」  違う。  そんなことを聞きたかったんじゃない。  ミオは何かを隠してはぐらかしている気がした。  それとも、普段は離れて暮らす自分が疑心暗鬼になっているだけななのだろうか。  車内がさっと深緑に翳って、車は母の葬られた墓地のある山道を登っていく。
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