第二十三章:君はいつも隣に――美生子十九歳の視点

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第二十三章:君はいつも隣に――美生子十九歳の視点

「じゃ、いただきます」 「いただきます」  三月末の昼の陽が柔らかに射し込む窓際に面したファミレスのボックス席。  四人全員の膳がちょうど揃ったところで(といっても誤差の範囲内の時間差で次々届いたのだが)、待ちかねたようにそれぞれ箸やスプーン、フォークを取る。 「今日はどうもありがとう」  ガラス窓に接した奥側に座る、スモーキーピンクのカーディガンを羽織ったハルのお祖母ちゃんはテーブルの向かいに座る自分と母親を労う風に微笑んだ。  街路の満開のソメイヨシノを透かした陽射しの照らし出すその笑顔は常より皺がいっそう深く刻まれて見える。   正確な年は分からないが、この人ももう七十歳は超えているだろう。  小さな頃から「ハルのお祖母ちゃん」という既に老いた人の位置付けだったが、改めて眺める相手の風貌は昔より明らかに高齢者に相応しくなっている。  スプーンで雑炊を掬って口に運ぶ姿も何となく以前より身体全体が一回り(しぼ)んで小さくなった気がした。  元から細身の人ではあるが、カーディガンの袖口から抜き出た手首の辺りは鶏ガラじみて見える。  自分と母親で上京するハルの引っ越しの手伝いはしたものの、本来なら混み合う新幹線や電車を乗り継いで移動するだけでもこの人には難儀だったのではないだろうか。
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