第二十三章:君はいつも隣に――美生子十九歳の視点

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「こっちは桜が早いんだね」  海老グラタンを掬ったスプーンをすぐには口に入れずにフウフウ息を吹き掛けながら、オリーブ色のフード付きパーカーを纏ったまま白い丸首シャツの襟を覗かせたハルはどこか不安げな色を潜めた笑顔をこちらに向けている。 「向こうはまだ桃が咲いているくらいなのに」 「ああ」  こちらは何でもない風に頷いて海鮮丼セットの味噌汁を啜るものの、正直、そこまで食欲はない。  と、月経二日目の下腹部の感覚が鈍い痛みからキリキリと中から剥がれ落ちるようなそれに変わった。  グッと眉根に皺が寄るのを感じながら、今度はグラスの氷を浮かべた水を飲む。  普段手帳につけている周期からしてハルの引っ越しを手伝う今日が月経に重なることは予測していたが、回避は出来ないのがこの月に一度の、女体特有の出血週間だ。
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