第二十三章:君はいつも隣に――美生子十九歳の視点

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 不意にドロリと股から生暖かい血が半ば固まって流れ出る感触がして背筋にゾワッと震えが走った。  血を吸い込んだ不織布のナプキンが股間に貼り付く感じが不快で座り直す体でジャージの上から剥がす。  いや、こんな体はもう嫌だ。純粋に女でも生理が心地良い人はいないだろうが、俺は初潮を迎える前から、胸が膨らむ前から、ずっとこの「女」に分類される体が嫌だった。  自分の心が間違えた体に入っているのだという感じがいつもしていた。  それが頭の中だけの根拠のない錯覚だとしたら心か体のどちらかを治さなければならない。  だが、自分の確信として心を純粋な女に矯正することは出来ない。  俺は昔からどう足搔いても、見た目も気立ても悪くない男性を好きになろうとしても、女の子しか好きになれなかった。  バレエを習っていた時もなりたいのはオデットやオディールではなく王子だった。  今はただ当たり前の男になりたい。  アスリートでも芸能人でもない、そんな道を目指してもいない自分が性別移行したところで世間から賞賛される功績にはなりはしない。  むしろ、「何かをこじらせた頭のおかしな人」という扱いを受ける場合が殆どだろう。  だが、それでいいんだ。俺は他人から褒められたいのではなく、飽くまで自分らしくいたいのだから。
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