第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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――ジー、ジー、ジー、ジー……。 ――半年前には子供が欲しいって流産して泣いてたのに、今度は離婚するから要らないって堕ろすの? ――お腹の赤ちゃんがかわいそう。 ――中絶するくらいなら何で妊娠するようなことしたの? ――ジー、ジー、ジー、ジー……。  頭がグラグラする。  足がフラフラと停留所の屋根の影から出てまたカッと強い陽の照り付ける路地を歩き出していた。  足を動かすと改めて下腹部のむくみを感じる。  これから中絶して、その後はどうするのだろう。どうしたいのだろう。一人の体になった所で、その先にはもう何の希望もない。  目の前には、自動車がひっきりなしに行き交う車道があった。  今、飛び出せば、きっとピンポン玉みたいに次々車にぶつかってお陀仏だ。  ニュースで定型句として使われる「全身を強く打って死亡」というのは遺体が原型を留めていないような状態だそうだが、きっとそんな二目と見られない姿になるんだろう。  でも、私みたいな失敗した人間にはそれが相応しいんだ。  汗で貼り付いたワンピースの背に寒いものが走り抜けて、体が震えた。  今更何を怖がることがあるのだろう。  二、三歩も駆け出せば一瞬で蹴りが付く話なのに。  目を閉じてフーッと深呼吸する。
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