第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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 ふと相手の黒いジャケットの肩にはらりと白い花弁が落ちて着いた。  真っ白に見えて仄かにピンクを帯びていて、縁の尖ったところがぽつんと濃い(くれない)に染まっている一枚だ。  服の肩に着けたミオ本人は気付く様子もなくこちらを見上げている。  自分だけがこの瞬間は全てを見通しているのだ。  その感覚も何だかおかしくて笑いながら答える。 「いいんだよ、俺が欲しいって言ったんだから」  社会人として初めての一週間を終えた土曜日の午後。  幼馴染と二人で店に行って自分の誕生祝いとして買ってもらったのは慶事用のシルバーのネクタイだ。  率直に言って、IT系の今の職場では先輩たちの服装を見てもスーツにネクタイを締めることは滅多になさそうだ。  だが、冠婚葬祭、特に結婚式などお祝いの場に出る特別なネクタイが一本あると安心だという気がしたし、それをミオからの贈り物としてもらいたかった。  値段は自分のプレゼントした名前入りのUSBメモリを若干上回るが、非常識に高いブランド物とかいうわけではないし、誤差の範囲内だろう。  社会人とはいえ高卒でまだ給料も貰っていない俺より東京の私大に通うこいつの方が余裕はあるだろうし。  頭の中でそんな算盤を弾く自分がいかにも小さくせせこましく思えたが、今日は土曜日で、明日も休みで、そして、今はミオと二人きりでいるのだから、楽しいことだけを考えよう。
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