第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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「これからどうする?」 「ハルはどうしたい?」 「そうだね」  まるでデートだ。葉桜の枝を透かした、花盛りの頃より僅かに強さを増した陽射しを浴びながら、休日の人の波を見渡して笑う。この見ず知らずの人たちの目には十九歳の自分たち二人が「学生のカップル」のように見えているだろうか。 「どっかでコーヒーでも飲むか」  もし、今、この瞬間、暴走車に撥ねられたり将棋倒しが起きたりして二人共死んだら、 「幼馴染のカップルが東京で不慮の事故に遭って一緒に死んだ」 と郷里の知り合いも思うのだろうか。 ――笹川には東京に彼女さんもいるし、羨ましいよ。  結果的に三年間同じクラスだった杉浦の目を糸にした卒業式での笑顔が浮かんだ。彼は隣県の専門学校に進むことになった。 ――俺らも東京に遊びに行きたいから、その時は案内して。  地元の大学に一緒に入った新島(にいじま)沖田(おきた)さんのカップルも笑って声を掛けてきた。  彼らがそういう形で高卒で働く自分をさりげなく励まそうとしていたのは知っている。  地元のトップ校を出て東京の私大に通う彼女とせいぜいが中堅どころの高校を出て働く俺なんか不釣り合いだとも実際の所は思われているだろう。   日蔭に入って、アスファルトと排ガスと飲食店特有の油の入り混じった匂いを含む風がひやりと通り過ぎた。
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