第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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「お友達?」  銀縁眼鏡の眼差しがこちらに移る。  さっと青葉じみた香りが鼻先を通り過ぎた。  これはコロンか何かの匂いだろうか。頭の片隅で察する。  そんなこじゃれた物も自分は持っていないし、今まで買おうとすら思ったことはなかった。 「はい」  くぐもった声が耳の中に響く。  そうすると、こちらを見詰める人懐こく細まった目にふと寂しい影が差すのが認められた。 “外国人の自分には拒絶的な態度で接する程度の低い日本の若者”  そんな風に初見の相手も感じているのだろうか。  でも、ミオだってこいつには明らかに会いたがってないようだし。 「同じ地元の友達です」  隣の幼馴染が言い添えた。  これはミオが本当は苦しくてもそれを出せない時の笑い顔だ。  異邦人は“知っているよ”という風に寂しさを潜めた笑顔で繰り返し頷くと答えた。 「お友達、沢山いるね」  ごく穏やかな、皮肉や当て擦りめいた調子など含まない声だったにも関わらず、()のピンクを失ったミオの白く固い笑顔には一瞬、刺された風な震えが走った。  一体、誰なんだ。ミオにとってどんな人間なんだ、こいつは。  こちらの思いをよそに自分たちより一回り上の相手は人懐こい笑顔に戻ると片手を挙げて告げる。 「じゃ」  異邦人は黙した自分たちに背を向けて人混みに戻っていく。  後ろ姿になると身に着けたテーラードジャケットや革靴の高価な感じが一層際立った。  嫌な男だ。自分で認めるのが惨めなので敢えて気付かない振りをしていた相手への反発がはっきり嫌悪の形に固まるのを感じた。
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