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「ハルの会社、二、三日前にバイトの帰りに近くを通ったけど、立派なビルだよね」
まだ湯気のうっすら立ち上る抹茶ラテの入ったカップを小さな手で包むようにして抱えた幼馴染はどこか引き攣った笑顔で告げる。
これは、こいつが本心を隠す時の顔だ。まるで小さなカップを手の中で潰さんばかりに強く握り締めた指先の力みからも判る。
「それはいいからさ」
さりげなく切り出すつもりだったのに自分で聞いてすら怖くなるような苦い声が出た。
向かいの強張った笑顔がギクリというよりビクリとした風に震える。
やっぱり、こいつはあの男のことを考えていた。
そう思うと胸の奥が黒く燃え出す。
「さっきの人が元カレってどういうこと?」
まるで付き合っている彼女の浮気を問い詰める男だ。
そう思うと何だか笑えてこちらの顔も引きつるのを感じた。
「全然聞いてないんだけど」
自分は今、きっと、いじけた卑屈な笑いを浮かべているに違いない。
桜と苺を混ぜた味だという薄いピンクのラテに口を着ける。
何だか塩っぱい。
苺より「桜」の風味を効かせたつもりなのかもしれないが、この季節限定商品を頼んだのはちょっと失敗だった。
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