第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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「あの人、テディさんて言うんだ」  香港や台湾だと一般人でも「ジャッキー」とか「レスリー」とか英語名をちょくちょく持つらしいのは自分も知っている。 「オモチャみてえな名前だな」  俺と変わらないアジア人の顔をして、しかも、三十路のオッサンのくせしてクマのぬいぐるみみたいな呼び名を使うのだ。 「一応付き合ったってことはちょっとは好きだったの?  一見して自分に良く似た、身形も育ちも上位互換みたいな男。 ――じゃ。  飽くまで人懐こい笑顔で立ち去ったあの男がミオとは無関係な所で出会った相手なら好感すら抱いたかもしれなかった。  抹茶ラテのカップを相変わらず小さな両手で抱えた、そのせいでいかにも女の子らしく見える幼馴染は“知っているでしょ”と言う風に寂しく笑って首を横に振った。 「そういう意味では結局好きになれなかったから別れたんだよ」  端から予想できる答えだったにも関わらず、何故か虚を突かれた気がした。  相手は今度はすっきりした風な安堵した笑顔で続ける。 「それでもう自分は女だみたいなフリして髪長くして無理にお化粧したりヒラヒラしたスカートやヒールを穿いたりするのは止めたんだ」  本来は華奢な肩幅に合わない黒のジャケットと細首を隠したブルーグレイのタートルネックに身を包んだ、男物の服に半ば(うず)もれて見える幼馴染は一息つくように抹茶ラテに口を着けた。 「あの時はとにかく付き合う相手が欲しくて焦ってたから」  別にあの人じゃなくても良かったけど。  聞いているこちらの頭でそう補完された瞬間、プツリと何かが切れた。
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