第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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(ひで)えな」  掠れた声が口から(こぼ)れ落ちる。 「お前、それで相手の時間を無駄にしたんだぞ」  それを聞くと、ほっとした様子でモスグリーンのラテを啜っていた幼馴染は再び石を投げ付けられたようにビクリと震えて俯いた。  だが、こちらはもう黙って流せない。 「本当は最初から好きじゃなかった、好きにもなれないなんて人を馬鹿にするにも程がある」  こちらを見詰める前髪の下の円らな瞳に潤んだ光が点って揺れた。  その様を目にすると、胸に熱い痛みが走る。  お前は弱くて感じやすい女そのものじゃないか。  ぐっと声を押し殺して付け加えた。 「俺ならそんなことされたら許さないよ」  周りがそれとなく自分たち二人に目を向けている気配に今更のように気付いたが、もうどうしようもなかった。  何でもない風にしてピンクとも白ともつかない色をした飲み物を啜る。  優しい色合いに反して口に含めば塩っぱさと酸っぱさが浮かび上がった。 「俺、最低だな」  ミオはまだ半分以上も小さな沼の残っている器を抱えて呟いた。 「そう言えばやったことが消える訳じゃないけど」  ギュッとまたカップを覆った指先に力が籠もる。 「その時にも(やま)しい自覚があったからハルには言えなかったんだよ」  こちらを見返す幼馴染は円な瞳の縁は紅く染まり、鼻も頬もピンク色で顔全体が桃のようだ。  あえかな皮に覆われ、指で少し押しただけでも傷付く柔らかな果実。
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