第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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「キヨ!」  不意に懐かしい声と共に右の肩に手を置かれた。 「ヨウ……」  栗色の天然パーマの頭に麦藁帽子を被り、赤地に向日葵(ひまわり)模様のワンピースを着た、小麦色の肌に人懐っこい笑顔の陽子(ようこ)。  子供の頃から近所に住んでいて高校まではずっと一緒だった、幼なじみの親友だ。  互いの結婚式には出たが、遠方に住んでいたせいか、最近はあまり連絡を取れずにいた。 「病院の会計で見掛けたから探してたの」  肩に置いた手とはまた別な手でこちらの二の腕を優しく叩く。  そうすると、ふわりと勿忘草の香りがした。これは陽子が昔から好んで使う石鹸(せっけん)の匂いだ、と思い出す。  こちらを見詰める黒目勝ちの円らな瞳は何かを察したように微かに潤んでいた。 「ヨウ」  白昼の往来だが、私は勿忘草の香りごと抱き着かずにいられない。  相手は黙って柔らかな厚い掌でこちらの背を穏やかに叩いていたが、やがて昔通りの口調で告げた。 「一緒に帰ろう」
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