第二十四章:二人のメモリー――陽希十九歳の視点

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「まあ、向こうも自分から笑って声掛けてきたんだから、そんなに気にしてもいないだろ」  だから、お前ももう忘れろ。  胸の裡でそう付け加えると同時に何故わざわざ俺と連れ立って歩いているミオに声を掛けてきたのかと改めて腹の中が燻るのを感じた。  もともと付き合っていたのは自分だとひけらかしたかったのか。  それとも、あの男の視野には端から俺の姿が入っていなかったのだろうか。 「向こうはずっと大人だしね」  どこか懐かしむようなミオの声と面持ちにふっと引き攣った笑いがこちらに戻るのを感じた。 「あれ、三十くらいだろ?」  高そうな服を着て、禿げても太ってもいないけれど、十九歳の自分たちからすればオッサンだ。 「ロリコンなんじゃないか?」  ミオは女性としてもやや小柄で童顔なので同い年の自分と並んですら若干幼く見える。 「例えば俺が詩乃ちゃん辺りと付き合うようなもんだよ」  あのテディさんが今の俺ら位の頃に俺らは今の詩乃ちゃんよりもっと小さかっただろう。  日本に来てそんな年の離れた外国人の女の子を引っ掛けようとしていたオッサン。  何にせよこいつは男と付き合った経験もないし(女ともないけど)、香港の映画だの俳優だの好きな女子学生ならチョロいと思ったのかな? 「その意味でもすぐ別れて良かったんだよ」  何故そんなに寂しい顔をする。  好きになれなかったとお前が自分で突き放した相手だろうが。  残したいような、しかし、まだ勿体ないような気持ちで桜色のラテをグイと大きく一口飲む。 「この後、どうしようか?」  さっき誕生祝いに買ってもらったばかりのシルバーのネクタイを持って。 「カラオケか漫画喫茶にでも行くか」  とにかく二人で安全に楽しめる場所に移りたかった。
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