第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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 磨かれたガラスの壁から半ば影になった蒼白い顔が虚ろな眼差しで見返してきた。  髪を切り揃えたばかりの、男女兼用のネイビーブルーのショルダーバッグを肩から提げ、下に着たハーフトップのおかげでターコイズブルーのTシャツの胸は何とか平らには見せてはいるものの、黒のハーフパンツの尻はいかにもきつそうな体つきをした、遠目には白く毛のない脚に平たい黒のサンダルを履いた大学生。  ふと思い出したように仄かなレモンの香りが鼻先を漂う。  女の装いはやめたが、汗臭いのは気になるので制汗スプレーだけは点け続けている。  ガラスに映ったそんな自分の姿を眺めながら歩いていくと、ふとその半ば影になった姿に蛍光ピンクや黄色の長方形が重なって浮かび上がった。
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