第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「失礼致します」  配膳ワゴンを背にした店員の声が響いた。  この人、ハルのお祖母ちゃんくらいだろうな。  髪こそ明るい栗色に染めているものの、どこか枯れた声と深い皺の刻まれた顔からそう察せられた。 「ライムサワーと烏龍茶、唐揚げとシーザーサラダをお持ちしました」  半透明の酒の入ったグラスを店員が萎びた手に持った瞬間、幼馴染はそっと片手を挙げて声を掛けた。 「サワーはこちらです」  何だか俺より場慣れしているみたい。こいつも酒を飲むには本来まだ一年早いはずだけど職場の飲み会で当たり前に飲んでいるんだろう。  俺はチョコレートやアイスクリームにちょっとアルコールが入っているだけでも具合が悪くなるから烏龍茶にしているけど。  もう成人の括りで結婚も投票も出来るけれど、酒や煙草を嗜むのはまだ駄目。  十九歳の自分たちはそんな宙ぶらりんな位置にいる。 「じゃ、乾杯」  向かいに座す幼馴染は労う風に微笑むと手にしたグラスをこちらのグラスにカチリと優しくぶつけてきた。
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