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「……それでね、この春、実家近くに家を建てて引っ越したの」
「そうなんだ」
冷房の利いた金臭いバスの座席で二人並んで腰掛けて揺られていると、高校時代を思い出す。
窓ガラス越しに広がる夏の空はあの頃と同じ鮮やかな水色で、真っ白な入道雲にはコバルトブルーの影が刻まれている。
「今日、病院に行ったのはね、とうとうオメデタになったみたいだからなんだ」
オメデタ?
一瞬、間を置いて妊娠のことだと頭の中で変換される。
そうだ、普通の既婚女性にとっての妊娠はおめでたい、喜ぶべきことだ。
目の前の小麦色の笑顔は続けた。
「五週目だった。出産予定日は四月三日だって」
「そうなんだ」
空っぽの頭の中に、エコー写真に刻まれた日付けだけがくっきりと浮かんだ。
「うちは四月二日」
妊娠を継続すれば、このお腹にいる命が外に出てくるはずの日。
「キヨもなの?」
こちらを見詰める円らな瞳がパッと輝いた。
温かに柔らかな手が私の手を握る。
「これから役所に行くから、一緒に母子手帳取ろうか?」
バスが角を曲がって、サーッと眩しい陽射しが私たちを包んだ。
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“妊娠していました。5週目です。あなたともうやり直すことはないので、お腹の子にはかわいそうですが、私一人で産んで育てることにします。”
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