第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「唐揚げ、レモン掛けていい?」  相手は既に白い手にくし形にカットされた黄色い果実の欠片を手にしている。 「ああ」  正直、自分一人で食べる時だと唐揚げにレモンの汁は掛けない。 「お願い」  でも、掛けたのが決して嫌いというわけではないから、ハルの好みに合わせよう。  相手は黙ってどこか人工的に均一に黄色いレモンの皮を指先で折り曲げて汁を絞り出しながら、皿の揚げ物をさっと一巡する風に掛けた。  ハルはこういう所は器用だ。子供の頃から台所に立つ機会が多かったせいだろう。  そんなことを思いながら眺めるこちらに相手は眼差しを向けた。
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