第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「父親が死んだ」  さりげない笑いを浮かべた顔のままぽつりと相手は告げる。  レモンと香ばしい料理の混ざった匂いの漂うテーブルの空気が一瞬、凍り付いた。 「昨日の夜にお祖母ちゃんから電話が来てさ」  レモンを掛けたばかりの唐揚げを箸で一つ摘まみながら淡々と語るが、長い睫毛を伏せると、目の下にうっすら生じた隈が際立った。 「そうなんだ」  どういう言葉を掛ければいいのだろう。  自分にはひたすら嫌な感じの爺さんだったけれど、ハルには一応は実の父親だし、貶されたら辛いだろう。
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