第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「母子家庭の息子がバレエなんて変だって蔭ではかなり言われてたみたいだな」  相手はいじけるというより呆れて笑う顔つきだ。 「普通はお金持ちのお嬢さんがやるもんだから」  苦笑気味に語る“お嬢さん”に自分も含まれている気がした。 「いや」  思わず口から飛び出した声が甲高く耳の中に響く。  グッと抑えた声で続けた。 「俺も長いこと習いはしたけどさっぱり素質がある方じゃなかったし、小学校高学年に入る辺りから胸や尻が大きくなって全っ然バレエ体型じゃなかったから裏では嗤われてたんじゃないかな」 ――すっごく変わりましたね? ――おしゃれというより何か別な人に見せる変装みたい。  勝ち気そうな年下の少女の眼差しと声が蘇る。 ――元はバレエ教室でもパッとしない、男みたいに垢抜けないなりをしていたくせに。  あれは言外にそう伝えていたのだ。
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