第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「まあ、どんな子でも何かしらは言われるんだろうけど」  相手は苦さに醒めた感じを加えた笑顔を静かに横に振って乾いた声で続けた。 「サーシャみたいに目立って巧くてプロにでもなれるとかいう息子だったら両親ももっと目を掛けてくれたのかなって」 「そんなこと思う必要ないよ」  そういえばロシアに帰ったターシャさんはどうしているのだろう、あの姉弟は果たして祖国に居を定めたのだろうかと頭の片隅で思いつつ、真っ直ぐ幼馴染を見据えて告げる。 「家族ってそういうもんじゃないよ」  口に出してから、これはハルの両親への侮辱になりはしないかと思い当って背中にひやりとしたものが走った。  唐揚げの特有の油の匂いとそこに掛けたレモンともサワーのライムともつかない柑橘系の酸っぱい匂いが沈黙した二人の間にどこか白々しく浮かび上がる。 「そうだね」  相手は思いの外あっさり頷いた。 「二人とももういないしな」  穏やかな、安堵すら感じられる声だ。  そこにこちらが少し寒々しくなるのを覚えた。
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