第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「俺ももう前を向いて、やっぱり大学行きたいな」  今度は希望より懐かしい思い出を語る調子で黒の立襟から蒼白い太く長い頸を抜き出した幼馴染は語る。  「外国語の勉強とかしたい。中国語とかロシア語とか、今はベトナムのITが伸びてるからベトナム語とか」 「そうか」  ロシア語とベトナム語は専門の外語大に行かなければ履修が難しいのではないかと思ったが、遮らずに頷く。 「サークル入ったりして同世代の気の合う仲間とワイワイやりたいよ」 「そうだね」  自分と同じ十九歳になったばかりのハルには年上の大人に揉まれて働く環境はやはり辛いのだろう。 「カノジョ作って、一緒にどっかに出掛けたりしたいよ」  カノジョ、とそこだけ上擦った声から恋人という意味での特定の女性が相手にとってずっと切望されている存在なのだと感じ取れた。 「そうだねえ」  それは自分にとっても同じことだ。  リカちゃんも、ターシャさんも、紗奈ちゃんも、そして美咲もついぞ俺のカノジョにはなってくれなかった。 「俺も今度手術して、本当にカノジョ作りたいよ」  改めて話そうと考えていたことが自然に口をついて出た。
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