第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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*****  七月上旬の、どこか湿り気の纏い付く眩しい陽射しが照り付けてくる。 「うちは七夕の笹飾りなんて何年も飾ってないなあ」  大人が集まって願い事を書くとすれば、「家内安全」とか「無病息災」とかそんな定型句の短冊ばかりになるのだろうが、私の家族はいつの間にかそんな月並みの願いすら書き表さなくなった。 「陽希がもうちょっと大きくなったら一緒に色紙で飾りとか作ろうかな」  砂場の息子は水色の半袖の背を見せて立ち上がっている。  固く真っ直ぐな黒髪の頭に、影になった中高い横顔。  胸の中にまた墨を落としたような影が広がり、打ち消そうとしても微かな忌まわしさが蘇る。  陽希は目など正面から見た顔形は母親の私に似ているし、色々な人から「ママそっくり」と言われる。  だが、ふとした瞬間に元夫の面影が浮かび上がるのだ。  万難を排して産むことを決めたのは他ならぬ私だし、私しかこの子を守れる人間はいない。  そう思っても、息子を愛し切れない自分が常に潜んでいる。  やっぱり、シングルマザーになるには心が弱かったのだと思わざるを得ない。 
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