第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

20/34
前へ
/319ページ
次へ
「確かに金もかかるし、何も手術しない場合よりも健康的な害は間違いなくあるだろうね」  改めて口に出してみると、自分の体には乳房を切除した術痕が今までネットで目にしたどの他の被施術者より痛々しく残り、性行為どころか排尿にも困難を覚えるような失敗したミニペニス形成の例になるだろうという気がした。  ちょうど美容整形に失敗して見た目もおぞましく、生活にも支障を来すような傷を抱えた人のように。  美容整形に失敗して生来の容姿より醜く日常的に苦痛を抱える体になってしまった人の話は「外見の美に囚われた愚かな人の末路」といった教訓を込めてメディアでもしばしば取り上げられる。  一方、性別適合手術に失敗して生来の容姿より醜く日常的に苦痛を抱える体になってしまった人の話は今の日本では目立っては出てこない。  自分がネットで目にした手術を悔いる「デトランス」もいずれも海外のケースだった。  だからといって、これはこの国の性別適合手術の失敗率が低い保証には決してならないだろう。  容姿コンプレックスから美容整形を受ける人、検討する人より性別違和から適合手術を受ける人、検討する人がそもそも数として圧倒的に少ないから、その中で失敗して悔やむ人の存在も透明化されているに過ぎない。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加