第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「お前みたいな本当に生まれついての男の体になるわけじゃないしな」  こちらを見詰めるハルの面が笑顔のまま目だけが虚ろになる。  何故そんな、自分の方が異常と言い渡された側のような顔をするのだ。  世間で変態扱いされるセクシュアリティを抱えているのも、それ故にわざわざ危険な手術を受けようとしているのも俺なのに。  そこに淡い苛立ちを覚えつつ、自分も当事者として相手より知識と理解があることを示すべく続けた。 「ミニペニスといったって結局、それで子供は作れないし。そういう点では生まれつきの女としての機能を無くすだけの去勢手術だ」  去勢、と改めて口にすると、自分が罪人か出来損ないの家畜に思えた。  ふっと向かいの相手は溜息を吐くというより、窒息からやっと逃れるように苦しい息を吐き出した。 「ミオがずっと苦しんできたのは分かるよ」  唇まで乾いた感じに白く血の気の引いたハルは重たい声で続ける。 「でも、俺は生まれつき男だけど、正直、それで良かったと感じたことはない」   真っ直ぐな固い黒髪の頭をゆっくりだがはっきりと横に振った。
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