第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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***** 「ハル、大丈夫?」  店に入る前よりも雨が勢いを増した夜の路地。  これは俺一人でさしても小さめだとミントグリーンの折り畳み傘を心許なく思いつつ、自分より頭一つ分大きい相手の髪が濡れないように掲げる。  バラバラッと雨がミント色の生地に打ち付ける音が響いて、傘からはみ出たTシャツの肩や背中が濡れて張り付くのを感じた。  帰ったらすぐに脱いでシャワーを浴びなくてはならない。  だが、その前に明日も仕事のあるこいつを家まで無事に送り届けないと。 「飲み過ぎちゃった」  雨の中から聞こえてきた相手の声は寂しい。  手術の話の後はどうということもない世間話をした。  京都の雅希君に新しい彼女が出来た、今度は年上の院生らしい。  貴海伯母さんはこの前、健康診断で癌の疑いが出て再検査になったが、結果は無事で良かった。  大河先輩――俺には先輩でなく同級生だが――は今度アメリカに留学するそうだ。  後は空き時間によくやっているゲームやNetflixで観たドラマの話などだ。  むしろ、自分よりハルの方がよく喋ったのだけれど、青ざめた顔のまま明らかに飲むペースが上がったというか、料理はたまに摘む程度で酒をひたすら流し込んでいる感じだった。
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