第二十五章:心に合わない器《からだ》、器に沿わない心――美生子十九歳の視点

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「何か欲しい物あるか?」  濡れたアスファルトと砂の入り混じった匂いが立ち昇る中、自分の鈍さに舌打ちしたくなる。  やっぱりこいつは実の父親が死んでショックを受けたのだ。十九で両親とも亡くして心楽しい訳がない。だからわざわざ一緒に飲もうと呼び出したのだ。  それなのに俺がまともに受け止めようとせず、うかつに口を滑らせて自分の性別適合手術の話なんかしたからすっかり気分が悪くなったんだろう。  臓器を取り出すだの、性器の形を変えて作るだの、ホルモンの注射をするだの、特に自分の性別に違和感のない普通の人が聞けば、というよりこれから受けようとしている俺自身にとってすらグロテスクだ。
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