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「何してんだよ、お前」
上から伸し掛かってくる相手を両手で押し戻しながら極力窘める口調で告げる。
ハルはきっと悪酔いしていて、自分が何をしているか分かっていないのだ。
「もう知ってるだろ」
黒い服を着て蛍光灯を背にして顔を影にしているために姿そのものが黒い影にしか見えない相手は嗤っているのか微かに震えた声で答える。
「ハルとは無理だよ」
言わなくてももう知ってるだろ?
「何が無理なんだ」
頬に鈍く重い衝撃が走る。
ハルが俺を叩いた。
「他の男とは付き合ったくせに」
もう片方の頬により強く重みを増した衝撃が来た。
一足遅れてカーッと熱い痛みが滲んでくる。
「女だから平手にしてやってる」
真っ黒な影になった相手から掠れた、しかし、奥底にゾッとするような憎しみを潜めた声が降ってくる。
「まだ男のフリするなら今度は拳でぶん殴るからな」
Tシャツの襟首を締め上げんばかりに捕まれて揺さぶられた。
じわりと両目が熱くなって体から力が抜ける。
そうすると、黒の影に飲み込まれるようにして覆い被さられた。
もう逃げられない。
殺されたくなければ、おぞましくても受け入れるしかないのだ。
よりにもよって、一番近くで理解してくれていたはずの相手がそんな牙を剥いてくる。
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