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「今までもよくも……」
目を閉じても、こちらの切り揃えた髪をグシャグシャにしてくる手の感触と呟く声に含まれる恨みに組み敷かれた体が震え上がった。
「優しくして」
何て媚びた、弱々しい声だろう。
胸の奥にパチパチと屈辱が燃え始めたが、目を開けて相手の耳許でもう一度囁く。
「全部初めてだから」
すると、上から押さえ付けていた力が幾分和らいだ。
「美生子」
これは俺の自我や意思が生じる前に周りが張り付けた名だ。
と、思った瞬間、苦しい息を吐いていた唇を相手の唇で塞がれた。
酒臭い匂いと共に相手の舌が侵入して絡んでくる。
吐き気が喉の奥までせり上げるが、こちらは受け入れるしかない。
今しがた打たれたばかりの頬から項にかけて、まるで確かめるように撫でられる。
「ずっと好きだった」
それは、自分が消し去りたい女としての部分だろう。
ぞわぞわと悪寒で震える体をまた抱きすくめられる。
「昔から」
自分もそうだったらいいのに。
器に適した心が備わっていて、幼なじみの彼が好きだったら、自分自身にとっても都合が良いのに。
屈辱が燻る胸の奥に寒い風が吹いた。
器に沿わない心ならもう要らない。心に合わない器ならもう捨てたい。
どちらも叶わないのだろうか。
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