第二十六章:置き去りの夏――陽希十九歳の視点

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第二十六章:置き去りの夏――陽希十九歳の視点

 どこかくぐもった波の押し寄せる音を模したアラームで目を覚ますと、ベッドには自分一人だった。  痛む頭で狭いワンルームを見渡しても誰もいない。  床に落ちているズボンのポケットからスマートフォンを取り出して画面をタップする。  電子が模す波の音はピタリと止まった。  液晶画面の右上端に表示されているバッテリーの残量は細く赤い線になっている。 「起こせって言ったのに」  エアコンの作動する音が微かに響く冷え切った部屋の中にぽつりと掠れた声がこぼれるのを感じた。
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