第二十六章:置き去りの夏――陽希十九歳の視点

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“酔っていたので記憶がない”  そう言えれば自分には都合が良いのだが、全部覚えている。  俺は騙し討ちのようなやり方で家に連れ込んだ挙句、何も悪くないミオを殴った。  そして、無理やりセックスした。  いや、はっきり言えば、世間でいうところのレイプだ。 ――ハルとは無理だよ。 ――優しくして。 ――全部初めてだから。  眼の前が薄暗くなるような、それでいて体の芯がまたカッと熱くなるような感じを覚える。  あれから相手は拒絶や抵抗、嫌悪を示すことはなかった。   自分としてはそれから持てる気持ちの全てを捧げたつもりだ。  それに対して受け入れる相手はしばしば苦痛とも快楽ともつかない呻き声を漏らした。 ――痛い。  涙の混ざった消え入りそうな声で告げられるとこちらもどうにも切なくなった。  自分は避妊と呼べる手段は何も取らなかった。  そもそもその用意もなかった。  今までそんな相手がいたこともなければ、昨日の朝、この部屋を出る時は自分が避妊の必要な行為をすることになると思ってもいなかったから。  十九歳の自分たちが何の手立てもなしにそうした行為をすれば妊娠の可能性が高いとは知っている。  それでも、むしろ美生子に自分という男を受け入れた女の体と思い知らせてやりたい気持ちで繰り返した。  彼女は咎めも抗いもしなかった。  だが、いざ目が醒めると隣にはもういない。  手の中の液晶画面が新たな操作を加えられないままパッと暗くなった。バッテリーの残量はまた一パーセント擦り減った数値を示している。
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