第二十七章:共生――美生子十九歳の視点

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 相手は元から蒼白い顔を更に乾いた画用紙じみた白さに転じさせながらタンクトップの蒼白い腕の先の拳を握り締めた。 「夜道で誰だか知らない男に襲われて妊娠したような子供だと」  ゆっくりと日蔭に立つこちらに歩み寄ってくる。  考えるより先にこちらのサンダルの足が後ずさった。 「ハル」  いや、さすがに白日の公衆の面前で殴る蹴るとかいう所業には出ないだろう。  そう頭の片隅で推し量りつつも、呼び掛ける声はうろたえた。 「お前だって普通に大学行ってまだ自由に過ごせた方がいいだろ」  互いに別々な所で、と胸の内で付け加える。 「今、七万払って手術すれば、俺もお前も全部元通りなんだよ」  と、焼け付くような陽射しに青ざめた面を晒した相手は一瞬にしてその顔をグシャグシャにして黒髪の頭を激しく横に振った。 「産んでくれ」  がっくりと膝をついてこちらの両の手首を掴む。  (いな)、掴むというように引き摺り込むようなズシリと重く痛い感触がこちらを捉えた。  人前でやめろ。  そんな常識的な羞恥よりも振り払えずに沈んでいく暗澹に強く襲われる。
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