第二十七章:共生――美生子十九歳の視点

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「俺が一人でも育てるから。これからもずっと働いて」  まるで首切り役人に命乞いする死刑囚だ。  跪いて上向いている為に常より幼く見える、涙を宿した目も鼻も紅い顔を見下ろしながら思う。  と、その顔が横向きにこちらのロングTシャツの下腹に押し当てられた。 「お前には要らなくても俺には掛け替えのない子だ」  こちらからは真っ黒な髪とうっすら赤くなった鼻筋しか見えないが、涙で震えた声が聞こえた。 「ミオが産んでもどうしても邪魔だと言うなら、俺がその子と二人で生きてくよ」  相手の頬を押し当てられた下腹部が微かに熱く濡れていくのを感じた。  前にもこんな状況があったとぼんやり思い出す。  その時と違って今は故郷を離れた都会の道の真ん中にいて、自分たちの脇を見知らぬ人たちが次々と足早に通り過ぎていく。 「その子がいれば、俺は生きられる」  ハルの声は自分よりもまだ胎動などないが微かに浮腫んだ感じのするこちらの下腹部――今日で六週と四日になる胎児に向かって語り掛けているように響いた。 「金は全部出すから産んでくれ」
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