第二十八章:鎹《かすがい》――陽希十九歳の視点

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第二十八章:鎹《かすがい》――陽希十九歳の視点

「やり過ぎだよ」  新幹線の改札口から出てきた、白いロングTシャツ――短いワンピースにも見える――に黒いハーフパンツの脚をのぞかせた美生子が開口一番、苦笑いする。  ミオが笑ってくれた。  まずそのことにホッとすると同時にそうした自分をいかにも小心で頼りなく感じる。 「恰好だけでもきちんとしないとさ」  見てくれだけだけど。  それはそれとして、確かにこれは普段は会社にも着ていかないようなスーツだ。  これは入社祝いにとお祖母ちゃんが買ってくれたもので、入社式以来着ていなかった。  そして、ミオから誕生祝いにもらったシルバーのネクタイを初めて締めた。  盆休みの今の郷里の気候ではYシャツがすっかり汗だくで背中に貼り付き、この分ではジャケットにも滲み出しているのではないかという危惧をうっすら覚える。 「お祖母ちゃんはもう知ってるの?」  知らないわけはないがどうしても確かめずにいられない様子で相手は尋ねた。 「うん」  極力明るい笑顔で頷く。 「だからこれを持たせてくれた」  昨日、祖母が地元のこの駅に近いデパートで急遽買ってきた箱詰めの最中(もなか)の紙袋を見せる。 「何か悪いね」  真っ白な服を纏った、簡易な花嫁姿じみて見える美生子は円らな瞳を伏せて呟いた。  これは俺ではなくお祖母ちゃんに対しての言葉だ。  前向きな笑顔に努めつつ首を横に振って答える。 「ミオは気にしなくていいよ」  駅の構内を出ると、どこか錆び付いたコンクリートの匂いがしてジメジメと熱を孕んだ風が並んだ二人に吹き付けた。
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