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「そうなの」
テーブルの斜め向こうに座す相手は美生子そっくりの――そもそも美生子が母親のこの人に似ているのだが――円らな瞳を細めてゆっくり頷いた。
「キヨが生きてたら、どう言うか分からないけど」
キヨ、と温かな声で呼ばれているのがあの怨霊じみた自分の母親だとは未だに信じ難い。
「私は二人に協力し合って生まれてくる子を大事に育てて欲しいし、こちらとしても出来るだけのことはするから」
もうすぐ五十に手が届く母親はテーブルの向かいに並んで座る自分と美生子を見据えて言い切った。
陽子おばさんにとっては娘の腹に宿った命に対して“出来るだけのことはしたい”ではなく“する”なのだ。
「ありがとうございます」
この人ならそう言ってくれるだろうと思った。ホッとして胸が温まると同時にそうした自分をどこか卑劣で後ろめたく感じた。
目線は自ずと隣の美生子に移ろう。
突き出た胸に白い服を纏った相手は小さな桜貝じみた丸っこい爪をした両手で麦茶の入った白い半透明の摺りガラスのグラスを抱えている。まるでその中に注がれている冷え切ったもので暖を取ろうとするかのように。
これで親ぐるみで外堀を埋められた、俺にはめられたとミオは内心恨んでいるのだろうか。
栗色の髪の襟足まで伸びた、小さな薄桃色の横顔が俯いたまま押し殺した声で答えた。
「ごめんなさい」
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