第三章:スカート、リボン、ピンク。――美生子三歳の視点

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***** 「ミオちゃん!」  砂場にいた黄色いトレーナーのハルくんが駆け寄ってくる。 「ようちえん、どうだった?」  切れ長の目は何だか羨む風に制帽に制服のスカート姿の自分を覗き込んでいる。 「いやだった」  幼稚園の指定バッグと手製の青地に電車の模様が描かれた体操着袋を手にした母親とハルくんのお祖母ちゃん。  子供二人の傍らに立つ大人二人の表情が曇るのが分かった。 「水色がいいのにピンクの体操着なんだもの」 「ぼくも黄色がいいな」 「黄色の体操着はないよ」  自分は好きな色の体操着があっても着られないが、ハルくんはそもそも好きな色自体がない。 「じゃ、ようちえんやだあ」  相手はこともなげに言い放った。  大人二人の表情もふっと和らいだ。 「すぐに慣れて、楽しくなりますよ」  ハルくんのお祖母ちゃんが宥める風に告げると、荷物を抱えた母親も頷いた。 「ええ」  ママの持っているあの青い電車模様の体操着袋には女の子用のピンクの体操着が入っている。あれをこれからもずっと着なくてはいけないのだろうか。  またも湧いてきた憂鬱な気持ちを振り払うべくハルくんに砂場を示す。 「トンネルつくろうよ」 「うん」  二人だけで遊んでいる方がずっと楽しい。  白ともピンクともつかない桜の花びらが舞い散る中を共に駆けながら、改めてそんな風に思う。
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